テナントとの関係を深めるコミュニケーション施策5選
目次
ビルオーナーやPM会社がテナントとの関係を良くするには、定期的なヒアリング・コミュニケーション窓口の整備・情報発信のデジタル化・付加価値サービスの提供・事業協力という5つの施策を組み合わせることが有効です。多くのビルでテナントコミュニケーションが「総務担当者止まり」になりがちな中、就業者一人ひとりまで届く接点をビルとして持てるかが、関係強化の鍵になります。
共用部を接点として使う実践論は 共用部をテナントとのタッチポイントに変える方法、防災文脈での周知は 防災情報をテナント全員に届けるビルオーナーの責任と手段 で深掘りしています。
テナントコミュニケーションが「総務部止まり」になる理由
テナントコミュニケーションが「総務部止まり」になる理由とは、ビルオーナー・PM会社の連絡先がテナント企業の総務・施設管理担当者にしか共有されておらず、就業者個人に直接情報が届く仕組みを持っていないためです。
従来のテナントコミュニケーションは、工事案内・更新手続き・クレーム対応など「契約に関わる情報のやり取り」が中心でした。この場合、窓口はテナントの総務部門ひとつで足り、メールや書面による連絡で十分機能します。
しかし、テナントリテンションの観点からは、この構造が大きなリスクをはらんでいます。テナント企業の経営判断(移転・解約)に影響する就業者の声は、総務部門を経由してビルオーナーやPM会社に届くことはほとんどありません。「エレベーターが混む」「案内が分かりにくい」「館内が古い」という就業者の不満は、蓄積してから退去通知という形で顕在化します。
就業者まで直接届くコミュニケーション接点を持つことが、現代のビル経営におけるテナントコミュニケーションの本質的な課題です。
施策①:定期的な個別ヒアリングでテナントの本音を引き出す
定期的な個別ヒアリングとは、テナントの総務・施設管理担当者と半年〜1年に1度の頻度で面談を設け、日常の不満・要望・業況変化を早期に把握するコミュニケーション施策のことです。
ヒアリングを効果的に機能させる3つのポイントは以下のとおりです。
定期的に実施すること:クレームが発生した時だけ連絡するのではなく、定期的に会う習慣を作ることで、テナント担当者との信頼関係が構築されます。「何かあれば言える相手」として認識されることが、問題の早期発見につながります。
具体的な質問を準備すること:「何かご不満はありますか?」という漠然とした質問より、「エレベーターの混雑はいかがですか?」「就業者の方から何かご意見はありましたか?」という具体的な質問の方が、本音を引き出しやすくなります。
回答を記録し改善につなげること:ヒアリング内容を記録し、改善可能な項目は対応状況を次回面談でフィードバックすることで、「ちゃんと聞いてくれている」という信頼感が生まれます。
施策②:コミュニケーション窓口の整備と対応スピードの改善
コミュニケーション窓口の整備とは、テナントからの問い合わせ・要望・クレームを受け付ける窓口を明確にし、対応スピードと品質を標準化する取り組みのことです。
テナントがビルオーナー・PM会社に連絡しようとした際に「誰に言えばいいか分からない」という状況は、コミュニケーションの障壁になります。担当者・連絡先・対応時間帯を明示し、テナントが迷わず連絡できる体制を整えることが基本です。
対応スピードの目安は、一次回答を24時間以内に行うことです。すぐに解決できない問題でも「確認して〇日までに回答します」という一次回答があるだけで、テナントの安心感は大きく変わります。対応が遅い・たらい回しにされるという体験が繰り返されると、テナントのビルへの不満として蓄積されます。
施策③:館内情報のデジタル化で就業者まで情報を届ける
館内情報のデジタル化とは、工事案内・防災情報・館内イベント・フロアガイドなどの情報を、貼り紙・印刷物ではなくデジタルサイネージで発信することで、テナント総務部を経由せずに就業者個人に直接情報を届ける仕組みのことです。
これは「総務部止まり」問題を構造的に解決する施策です。エレベーターホールやかご内にサイネージが設置されていれば、就業者が毎日通過するたびに情報を受け取ることができます。テナント総務部が伝え忘れた案内も、就業者に自動的に届きます。
GRAND株式会社のオフィスビルメディア(エレシネマ・エレビ)は、端末代・設置工事費・通信費・保守費をGRAND株式会社の負担で導入できます。ビル側の費用負担は電気代(月300円程度/台)のみで、ビルオーナー・PM会社が遠隔で情報を配信できる電子掲示板も提供されています。例えばリクルート(グラントウキョウサウスタワー)では食堂イベントや館内マナーの告知に、みずほFG(大手町タワー)では社内イベントの周知に活用しており、就業者に届くコミュニケーション基盤として機能しています。
施策④:テナント向けの付加価値サービス・特典の提供
テナント向けの付加価値サービスとは、入居テナントの就業者が「このビルに入居しているから受けられる」と感じる体験・サービス・特典を提供することで、ビルへの満足度とエンゲージメントを高める施策のことです。
具体的な手段は以下のとおりです。
サンプリング・特典の提供:スポンサー企業と連携した無料サンプリングの実施や、近隣店舗との割引提携など、就業者が日常の中で「得をした」と感じる体験を提供します。ビルへの好感度向上とテナントリテンション効果が期待できます。
テナント企業への情報発信枠の提供:オフィスビルメディアのオーナー枠をテナント企業向けに開放し、就業者や来館者への情報発信に活用してもらう取り組みです。保有物件のオーナー枠をテナント限定で横断的に提供し、テナント企業が複数拠点で自社の情報を発信できる仕組みを整備した大手デベロッパーの事例があります。
ビル共用設備の優先利用:会議室・ラウンジ・イベントスペースの優先予約や割引提供も、テナント企業の総務担当者から高く評価されるサービスです。
施策⑤:テナント企業の事業活動に協力するパートナー関係の構築
テナント企業の事業活動への協力とは、ビルオーナー・PM会社がテナントを単なる「賃料を払う相手」ではなく、ともに価値を創る事業パートナーとして位置づけ、テナントのビジネスを支援する関係を築くことです。
具体的な協力の形は物件によって異なりますが、以下のような取り組みが実績として見られます。
館内での事業機会の提供:テナント企業が他の入居テナントや来館者に向けてサービス・製品を訴求できる場や機会を提供します。異なる業種のテナントが入居するマルチテナントビルでは、テナント間の横断的な連携を促進することもコミュニケーション施策のひとつです。
テナントの情報発信支援:オフィスビルメディアや共用部の掲示スペースをテナント企業の就業者向け情報発信に活用できるようにすることで、テナントにとってビルが「伝える場」としても機能します。
パートナー関係が構築されたテナントは、賃料交渉においても合理的な範囲であれば値上げを受け入れる傾向があります。コミュニケーションの深さがリテンションと収益改善の両方に寄与する関係を目指すことが、テナントコミュニケーション施策の最終的なゴールです。
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